館長あいさつ

館長あいさつ

 新しい年を迎え、静岡県立美術館は32歳になります。人間でいえばいよいよ働き盛りという年齢かもしれませんが、美術館は人間と異なり、まだ100年、200年と生きていく可能性があります。いや、2218年になおこの場所が静岡県立美術館でありつづけているかどうかは誰にもわかりません。しかし、この美術館に収蔵され展示されている美術品は、たとえ居場所を変えてもきっと生きつづけているでしょう。たまたま今は、静岡県が、さらには私たち美術館員がそれらのお世話をしているという感じがするのです。

 昨年の暮れに開幕した「アートのなぞなぞ-高橋コレクション展」(2月28日まで)では、現役の精神科医でもある高橋龍太郎氏の大コレクションから100点の現代美術作品をお借りし、それに当館のコレクションの中から選んだ30点の美術作品をいっしょに展示しました。展覧会のポスターやチラシに、「共振するか反発するか?」と記されているのはそのような理由からです。

 当館の30点は現代美術でも現代の美術でもなく、むしろ100年前に描かれたものも何点か含まれます。異なる時に異なる場所で生まれてきたものをこのように展示室で並べて見せることは、美術館にしかできない大胆な企てだということを、会場を歩きながらあらためて思いました。展覧会とはもともとそのようなものなのですが、今回の「共振」と「反発」はとりわけ際立っています。見慣れていたものが違った姿で迫ってくるのです。

 開館以来32年間に、当館は2,600点を越える美術作品を収集してきました。東西の風景画、ロダンと近代彫刻、静岡県ゆかりの作家たちが作り出したものをコレクションの柱にしています。その蓄積はこの美術館の血となり肉となっているように思います。一般にはそれを美術館の「特徴」とか「特色」と呼ぶわけですが、むしろ「体質」と呼びたくなるほど、コレクションは美術館の根幹を成しています。企画展とは別に、ロダン館および第7室にてコレクションにふれていただけます。

 ところで、高橋龍太郎氏には『現代美術コレクター』(講談社現代新書、2016年)という著書があります。その中で、「そもそも、アートを美術館で見るということと、ギャラリーなどで買うということは、根本的に違う行為だ」と書かれています。それはそのとおりでしょう。

 では、美術館が買うことと個人コレクターが買うこととの違いはどこにあるか。この問いの答えは一見簡単そうです。美術館は関係者の合議制で決め、個人コレクターは直感で買う。高橋氏も「直感」だと書いていますが、すぐそのあとで「作品を前にするとき、私はできるだけ自分を“小さく”して見るようにしている」とも書いています。それは「自分にまとわりつく多くのものを無に近づけるということ」なのですが、その中には「自分の持っている価値観」まで含まれるというのですから驚いてしまいます。その結果、プライベートだったコレクションがどんどんパブリックなものになってしまったともおっしゃっています。

 先に述べた話に似て、たまたま高橋龍太郎というコレクターが20世紀末から21世紀初めに生まれた活きのよい美術作品を世話しているのだというようにも思うのです。ひるがえって、美術館の果す役割とは何かを考えないわけにはいきません。できれば、高橋龍太郎氏にこんなお話を直接伺いたいと考えています。それが「アートのなぞなぞ-高橋コレクション展」会期中にうまく実現すれば、あらためてみなさまにご案内を差し上げます。

2018年新春

館長 木下直之

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