風景の交響楽

世界の動向と日本

戦後アメリカの黄金期

20世紀前半に世界中を巻き込んだ二つの大戦を契機に、数多くの芸術家が新たな活動の場を求めて、故郷を離れ海を渡った。大戦間にヨーロッパで醸成されたモダンアートは、人の移動を介してアメリカや日本にも伝播し、異なる土地と風土のなかで独自の変容をみせ、各地で個性豊かな戦後の美術を花開かせた。時期を同じくして、女性の作家がめざましい活躍をみせ、時代や自らを取り囲む環境の変化に柔軟に対応しながら大胆な創作活動を行った。

色彩が織りなす巨大なヴェール モーリス・ルイス 《ベス・アイン》

地塗りをしていないキャンヴァスの上端から、色の違うアクリル絵の具を何層にも重ねて流し、布地に染み込ませてつくりあげた巨大な画面。キャンヴァスを木枠に留める角度、張りとたわみ加減、絵の具の粘性、色調、量、流す方向などによって、1点1点仕上がりが異なる。ルイスは数重なる制作を通じて、仕上がりを自在にコントロールできるまでに技法を洗練させた。

むき出しの物質 ドナルド・ジャッド 《無題》

同じサイズ、同じ形の10個の立体物が床から天井にかけて床と水平に等間隔で壁に取り付けられている作品。表面に黒のアルマイト加工をほどこしたアルミニウムと、軽く透明感のあるプレキシガラスという素材でできている。作家の感情や即興性を感じさせないむき出しの物質性は、絵画や彫刻よりもむしろ建築への接近をみせる。

戦闘機を背に微笑む少女 ジェームズ・ローゼンクイスト 《F-111(東,西,南,北)》

1964から65年にかけて制作した部屋の大きさほどの油彩画を版画に置き換えた作品である。タイトルのF-111とは、四枚に渡る画面を横断してその全体像を出現させている当時最新鋭のアメリカの戦闘機の名称。オリジナルの油彩画が制作された数年前に、初飛行し話題になった。笑みを浮かべる少女の頭上にはメカニカルなヘア・ドライアー、臓物のようにも見える不気味なスパゲティー、水爆実験のきのこ雲、マスメディアに現れた通俗的なイメージの断片をアイロニカルに組み合わせている。

踏んでもよし。ずれたら、それも作品。 カール・アンドレ 《鉛と亜鉛のスクエア》

ブロンズ、大理石などの伝統的な素材ではなく、金属や石、ブロックなどを、さして加工もせずにそのまま床に置く。それは、台座によって大地から立ち上がろうとする伝統的な彫刻の反語であり、空間造形の新しい可能性を開いた。

アイデアこそがアートである ジョゼフ・コスース 《タイトルド,雨》

辞書の中の「雨」という言葉の定義を写真に撮って、白黒を反転させ、アルミニウムパネルに貼りつけたもの。絵画や彫刻など一般的に芸術作品と考えられているものから、視覚的なイメージだけでなく、物質性もそぎ落とし、作家の頭の中で考えた観念だけを、文字のフィルターを通して示している。「芸術とは何か」という疑問を投げかけることこそがコスースが考える芸術であった。

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静岡県立美術館 学芸課
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